こんばんは。
今日はクリスマス。霜の降りた寒い朝でしたが、どんな1日を過ごされたでしょうか。行田のぞみ園は、本日はお休みです。お休みの日は、たまに絵本や本の話などを紹介しています。
昨日のクリスマスイブ、お隣の教会の礼拝に、行田のぞみ園の社員さんも何名か来られ、楽しい時間を一緒に過ごしていました。
そのお祝いの最中、一冊の素敵な絵本を読み聞かせしてくださる方がいらっしゃって、社員さん達も聞き入っていました。今日はその一冊をご紹介します。
鈴木まもるさんの、『戦争をやめた人たち 1914年のクリスマス休戦』です。
「クリスマスまでには帰れるさ」という楽観的な気分で1914年に開戦した、第一次世界大戦。戦禍はひどくなるばかりで、到底家には戻れそうにない、という悲観的な気分が、開戦後の初めてのクリスマスには漂い始めていたことでしょう。これは、そうした最中に起きた、驚くべき実話をベースにした一冊です。
イギリス軍とドイツ軍がそれぞれの塹壕の中、睨み合う戦場。
クリスマスイブの夜に、ドイツ語で歌われた「きよしこの夜」に応じるようにして、今度はイギリス軍が「きよしこの夜」を演奏し、拍手が起きます。そして夜が明けたクリスマスに起きた出来事とは...?
戦争の中では、人は相手を「敵」とみなし、「人」とは認識しないようになっていきます。でも、クリスマスイブの真夜中、凍えるほどの寒さとしらみと恐怖、死に支配された夜に、兵士たちが聞き慣れた讃美歌が相手の塹壕から流れて来たら?「敵」は自分達と同じ血と肉を持ち、同じように大切な家族や友人がいるのだと知ってしまったら?
「人」に戻ってしまった敵に対して、彼らは何を思うのでしょう。クリスマスは、大きな恵みと赦しの時でもあると、彼らはお互いに知ってしまっているのです。
第一次世界大戦は、人が大量に殺戮される近代戦争につながる最初の戦争です。絵本でも触れられていましたが、1914年からこのあと実に4年続き、年を追うごとに凄惨をきわめていきます。全部がこの絵本のようなきれいなお話におさまることはありませんでした。それでも、こんなクリスマスストーリーがエアポケットのように存在していたことを知ることは、現状にくじけそうになるとき、勇気の種のようなものになっていくのではないでしょうか。
作者の痛切な祈りを覚える一冊です。同時に、「私たちはやめられるのだろうか?」という思いも、苦く後を引きます。
同じ題材がモチーフになっている『戦場のアリア』なども一緒にご覧になっても良いかもしれません。バグパイプの音色、戦場で奏でられる讃美歌の、圧倒的な歌の力を感じられる良作です。
ちなみに、第一次世界大戦期と聞いて思い出すのは、L・M・モンゴメリーの『アンの娘リラ』。『赤毛のアン』の末娘、リラの物語が、ちょうど第一次大戦期のカナダの状況とともに描かれていきます。大戦期のヨーロッパの青年たちの苦悩、彼らを送り出す家族の悲哀が身近に迫って来ます。「行ってしまった」全ての青年たちへの愛惜が滲む、『赤毛のアン』シリーズの中でも異色の一冊。傑作です。