行田のぞみ園ブログ

特定非営利活動法人行田のぞみ園のブログです。

上野発の

こんばんは。

今日は行田のぞみ園はお休みです。お休みの日は、絵本や本の話などをしています。お時間のある方はお立ち寄りください。

 

皆さんは、夜行列車はお好きですか?今はもう、定期運行は「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」のみでしょうか。まだ「北斗星」が上野から走っていた頃、友人と乗り込んで函館を目指したことがありますが、今や「上野発の夜行列車」が無くなってしまったので、あの時乗ったのは本当に幸運な経験でした。

旅の移動はよりスマートに、より早く、というのが当たり前になってきました。もちろん便利でありがたいものですが、あのゆったりごとごと揺れる夜行列車の旅、車窓から見える夜のわだかまり、トンネルを抜けた先の朝日も、なかなか捨てがたいものです。どちらも並立してくれたら、というのはわがままでしょうか。

 

今日は『やこうれっしゃ』をご紹介します。

作者の西村繁男さんは、この絵本を描くために、たくさん時間をかけて旅をし、列車に乗る人々を見つめてきたのだとか。もちろん描かれた年代は昭和50年代。車両の中ではタバコを吸ってるおじさんがいたり、今となっては服装や背格好も全然違う馴染みのない風景かもしれません。しかし、今はない日本の風景、というノスタルジアだけでなく、よく目を凝らすと人の営みはどの時代も一緒、と笑ってしまう懐の深さがある一冊です。

文字はないのですが、見つめていると、上野駅の雑踏、寝台列車や座席で眠る人たちの寝息や子供達の泣き声、囁き声、笑い声、そんなものがひしめいているのが分かります。流れる風景の中に人々が息づき、温もりが宿っているそんな一冊。丹念に見ていくと色々な遊びも仕込まれているので、そちらも一興です。

時の流れを感じると同時に、時を超えた人々の営みの連続性もまた、感じる一冊。作者の眼差しのぬくもりを、ぜひお楽しみください。